浄土真宗本願寺派 教念寺
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  第148話 桜ドライブ

 毎年、母を『桜ドライブ』に誘います。
 何の事はない、近場の桜が綺麗なところを数時間、ぐるりと車で回るだけです。今年は花の時期が長かったのですが、なかなかドライブができませんでした。
 所用で車を出す度に、早生の樹からハラハラ花びらがこぼれ出し、もう今日が最後!と決めた日は、まるで夏が様子を見に来たかのようなポカポカ陽気でした。
「テレビで視てるから別にいいよ」と面倒くさがる母を無理やり助手席に乗せて、いつもの土手まで来るうちにも、早生は葉桜が目立ちます。もう数日早く周りたかったなぁと思いながら駐車スペースに車を停めました。
 いつもは「お母さん、車から降りてごらん、土手を少し歩こうよ」と言うのですが、今まで歩いたためしがありませんから、私は母には何も言わずに車から降りてみました。
 桜吹雪が散華のように降り注ぎます。すると母が自分から車を降りて、桜吹雪の中ではしゃいでいるのです。「ビニール袋持って来ればよかった。花びら持って帰りたいくらい」と言っています。
 私が先に土手に登り、母の手を引くと、母はまたまた初めて見る風景に感動しきりでいます。
 まるで仏さまが花を降らしてくれたみたいね、次はお弁当を持って来たいね、と桜吹雪を満喫していました。
 それからのドライブも、ここが見処という時に、数台前に大きなトラックやトレーラーがいるために、ゆるゆると徐行に近いスピードですから、母が「仏さまが桜を見させてくれてるみたいだね」と言います。桜街道が終わると不思議とトラックやトレーラーが右左折をしますから、本当にそんな気がしました。
 私はずっと桜が嫌いでした。花の時期だけチヤホヤされて嫌いだったのですが、ある時桜が大好きになりました。
 桜はどんなにチヤホヤされても、それに執着していません。花が散る時は潔く散り、夏には葉を青々と繁らせ木陰を作ります。その葉が落ちて寒い冬になれば、また何の文句も言わずに春になる準備を黙々と整えます。そしてまた無心に花を咲かせます。
 その時その時を、なんて活き活きとしているんだろう、と思ったその時から好きになりました。それは恥ずかしながら、母を桜ドライブに誘うようになった十五年程前からです。
 だからきっと私は、母に桜を見せてあげるのではなく、私が桜に感謝の気持ちを伝えたくて見に行くのですね。