白木蓮と私

 春告花(はるつげぐさ)というと梅が代表的ですが、雪中四友(せっちゅうのしゆう)という言葉もありますし、春を感じる花は人それぞれでありましょう。私の中の春告花の一つに、コブシと木蓮があります。
 コブシと白木蓮(はくもくれん)、幣辛夷(しでこぶし)と紫木蓮(しもくれん)は、区別がつかないと仰る方もいます。私の独りよがりな見方では、コブシはジャズダンサー、木蓮はクラシックバレリーナの咲き方をしています。
 恵信尼様のお印がコブシですし、偶然にも新座市の花がコブシですから、私はコブシが大好きです。同じくらい木蓮も好きで、毎年近くの緑地公園に木々を愛でに行きます。そこにはコブシと白木蓮が並んでいる場所があって、違いがわからない人は是非、ここに来て見てみて!と思うのです。
 今年も行ってみましたら、暖かいせいか例年より早く花が咲き出していたようです。いつもお日様にむかってシュッとしていた白木蓮が、コブシの花のように両手を広げたようにヒラヒラしていて、半分程は花が崩れて落ちていました。大きな白い花びらが下の低木に落ち、更に土に落ち色が変わっていく様を目の当たりにしました。
 花が咲き散っていくのは当たり前の事なのですが、愕然として涙が頬をつたいました。
 子どもの頃、早春の青空に高く高く咲く白木蓮を見た時に、きっと旅に出そびれた白鳥がこの花になった、と思ったのです。
 それからずっと、私の中では白鳥である白木蓮ですが、ずっと咲いているわけはなく、時が来れば散っていくのですが、無常とはこの事なのだと突きつけられた気がしたのです。
 佇む間も白木蓮の花びらはハラハラ落ちます。まるで散華の花びらのようにハラハラハラハラ土に返っていこうとします。
 そうか、本当の白鳥は、シベリアに帰ってしまっているなぁ。昨年も今年も、人間達が『戦争』というものをしていても、渡り鳥は季節によって棲家を変えているんだなぁと思いました。戦争がない時代に生まれて、戦争のない国に育った私は、戦争がなくて当たり前の世界に生かされています。
 白木蓮の花びらが落ちている低木は紫陽花のようでした。ワクワクするような綺麗な黄緑色の新芽が出ていました。季節の移り変わりと人生においての移り変わりを垣間見た気がしました。

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