切れたお数珠
「どうしたらいいでしょうか」が、開口一番でした。鳴った電話に出ましたら、5分程前にご法事を終えてお寺を出た方からでした。
聞けばお念珠が切れてしまったというのです。お念珠は、経年劣化で切れる事がありますから、仏具屋さんで繋ぎ直してもらってくださいと申し上げました。
暫くして、同じ方からまた電話がありました。
実はお首から掛けていた数珠なんですが、お寺の帰りに切れるなんて縁起が悪いから引き取って欲しいとの事です。
うーん、本来お数珠というのは首から掛けるものではありませんので、なぜそれを掛けていたのか訊いてみましたら、厄除け的に掛けていたそうなのです。
ドラマなどで僧兵などが大きな玉のお数珠を首から掛けている、ちょっと怖いような異様な雰囲気を想像してしまいました。
浄土真宗は厄除けをしませんから、本来ならそれは要らないお数珠という事になります。その事をお伝えすると、では、今すぐお寺に持って行くのでお焚き上げして欲しいと仰います。
まず、お念珠は切れたら繋ぎ合わせて大切に使うものです。場合によっては子や孫に形見分けする事もあるものです。繋ぎ合わせる気持ちがなく、切れたからお焚き上げする、というお数珠、果たしてあなたに本当に必要なものだったのですか?と訊ねてみました。
少なくとも、今の今まで肌につけていたものを、要らなくなったからとお寺に預ける、お寺はお数珠のゴミ箱ではありません。あなたがしようとしている事は、『お焚き上げ』と名前をつけたポイ捨てではありませんか?どうぞ繋ぎ合わせてお使いください。繋ぎ合わせる必要がないものなら、要らないものとなりますから、要らないものとして処分なさってください、と言いました。
電話を切りながら、さて、私自身、娘はいないとは言っても、子や孫に残せるお念珠はあるかなぁと考えました。普段使いの3つ共、其々に大切な思い出があるのです。その思い出と共にお念珠を引き継いでくれる人を見つけておこうと思いました。思いを引き継いでくれる人は、子や孫に限らなくても良いのではないかと思っています。