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お母さん待っててね

 「お母さん、ご飯だよー」と、いつものようにお夕飯を母に届けますと、母が畳の上で横になっていました。ですが手に血の気がなく、呼びかけにも応じません。すでに心肺停止していて目の光に対する反応もありませんでした。
 ちょうど1時間前、今からお夕飯を作る由を電話して、ご本山や弟(ご門主様ご親教の手話通訳)の写真を見せると話してスマホ持参で行ったのです。そのスマホで瞳孔を見たり救急車を呼ぶ事になるとは!心臓マッサージをしながら救急車を呼びましたが、このマッサージは命を救う為ではなく、最後の悪あがきだなぁ、と心の中で思っていました。
 搬送された病院で強心剤をやってもらいましたが、心臓は僅かに痙攣する位でした。待合室ではなく、母のそばにいていいと言われました。手を握って「お母さん」と呼ぶ以外に何も言えず、やっとやっと「産んでくれて有難う」と言えました。心電図の波形がフラットになり、救急外来の忙しさもわかるものの、医師の死亡診断は、会社から駆けつけている弟が到着してからにして欲しいとお願いしました。
 死因解明のCTで、脳出血は無いので急性心不全となりました。胸にかなり水が溜まっていました。年末から脚がむくんでいたので利尿剤を飲ませていて、翌日受診予定にしていましたが、母に明日は来ませんでした。
 愛別離苦の先には倶会一処の世界が開けているのですが、今はまだ、買い物に行って母の好きなものを見ただけて悲しくなるし、お夕飯を作るたびに涙が出て出て仕方ありません。
 母は親鸞さまと同じ命日となりましたので、初七日が私の還暦の誕生日でした。もう自分の誕生日に母にささやかなプレゼントをする事もないのです。還暦で生まれ変わるってこういう事なの⁉︎
「お母さん(ショートステイから)おかえり」
「はい、ただいま。お前も(ご本山から)おかえり」
「はい、ただいま。今からご飯作るからね。あと、今日(御正忌)のお汁粉とお土産持っていくから待っててね」
「うん待ってる。ゆっくりでいいよ」
そう言っていたのになぁ。もう待っててくれないんだなぁ…。そうか、お母さん、今はお浄土で待っててくれているんだなー。
 お母さん待っててね。そちらにはゆっくり行くから待っててね、お母さん。

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