蓮如上人御一代記聞書56
「おちばをしらぬ」
蓮如上人はある時こう仰ったよ。
人はあがりあがりておちばをしらぬなり
「人は上がることばかりに気を取られて、落ちるところのあることを知らない」ということだね。
みんなは学校に通いながら、どんな思いで勉強しているかな。いい成績が取れるように、昨日より少しでも前に進むようにと、知らなかったことをひとつずつ学んでいく。そしてだんだん学ぶことが喜びになり、もっと前に、もっと上にと勉強していくよね。
勉強だけじゃない。日々の生活だって、昨日より今日、今日より明日とよくなることを夢見て上に向かって進んでいる。それ自体決して悪いことではないけれど、いつか落ちるときがくることを忘れちゃいけないと、蓮如上人は教えてくれているんだ。
高く舞い上がったボールも、必ず落ちてくるよね。覚えたことは忘れていくし、身につけたものも思うようにはできなくなる日が必ずくる。心身の衰え、老いや病は誰にも起きることで、いつまでも若く健康で、上に上にと進み続けることはできないんだ。
そしてもうひとつ。仏法についても「おちば」を忘れちゃいけないよ。仏法を学んでいくと、だんだん楽しくなってくるよね。法話や教えの中には人生にとって大切なことが説かれているし、聞けば聞くほどなるほどと納得する。そして、少しずつ浄土に近づいているように思う。これ、「あがりあがりて」という姿だよ。
けど僕たちには「おちば」がある。それが地獄に落ちるということ。どれほど仏法を聞いても、ありがたく思っても、自性が変わるわけじゃあない。地獄に落ちる自分であることは変わりがないんだ。
そんな僕たちを見て、「落としはせぬぞ、われに任せよ」と立ち上がられたのが阿弥陀様なの。落ちる自分を忘れていたら、阿弥陀様の救いとすれちがっちゃうよ。地獄行きの僕たちだから、蓮如上人は「行いをつつしんで、何ごとにつけても気をつけるようにしなければならない」と仰っているんだよ。